源泉控除対象配偶者は、平成29年度の税法改正で新設されました。
比較的新しい制度であるうえに、同じような言葉に同一生計配偶者もあるため、違いがわからない人も少なくありません。
ここでは、源泉控除対象配偶者について、わかりやすく簡単にまとめます。
源泉控除対象配偶者は、以下の4つの条件をすべて満たす人です。
・年末調整を提出する本人の合計所得が900万円以下
・本人と生計を一にしている配偶者の合計所得が95万円以下
・配偶者が青色事業専従者として給与の支払いを受けていない
・配偶者が白色事業専従者ではない
細かく説明すると、合計所得が900万円以下というのは、年間の給与収入が1,120万円以下ということです。
合計所得95万円以下は、年間の給与収入が150万円以下です。
つまり、給与をもらっている本人の年間の所得と配偶者の年間所得の両方によって、控除対象になるかどうかが決められる制度に変わりました。
そのため、配偶者の所得がたとえ0円でも、給与所得者本人の所得によっては控除対象外となります。
前述したとおり、給与所得者本人の所得が900万円を超えたところから、段階的に税金の控除金額が減っていく制度になったことが大きな改正点です。
源泉控除対象配偶者と同一生計配偶者という名称が混同されることがあります。
これも簡単にまとめると、以下のような違いがあります。
・源泉控除対象配偶者
配偶者控除か配偶者特別控除で38万円の控除(満額)を受けられる配偶者
・同一生計配偶者
納税者本人の所得に関係なく、税金控除されていた平成29年の税法改正以前の控除対象配偶者
現在は同一生計配偶者の所得が0円でも、納税者本人の所得が900万円を超えれば控除対象にはならないため、両者が必ずしも一致するわけではありません。
源泉控除対象配偶者は、配偶者特別控除の38万円(満額)を受け取れる枠が、配偶者本人の収入から見れば広がったことは確かです。
ただ、給与所得者(納税者本人)の所得に関しても制限が設けられたため、たとえ配偶者が無収入でも、税金の控除対象からは外される制度になったことも事実です。
もちろん、改正後も改正前と変わらず該当する方もいらっしゃいます。給与所得者は、年末調整などの際に源泉控除対象配偶者の有無について問われますので、正しく認識しておきましょう。
源泉控除対象配偶者の意味は何となくわかった、それでこれは一体どこに影響するのかとお考えの方もおられることでしょう。
ここからは事業者側(経理側)の視点で、事務における源泉控除対象配偶者に対する考え方をまとめます。
そもそもなぜ「源泉控除対象配偶者」というものが存在するのでしょうか。なぜ事業者は従業員の配偶者が「源泉控除対象配偶者」かどうか把握する必要があるのでしょうか。
これは一言でまとめるなら
「給与計算のため」
ということになります。
給与計算で源泉徴収税額を計算する際に使用します。
本来、所得がある所得者は、全員その年の所得金額と税額を計算し、自主的に申告「確定申告」を行い1年間の所得金額を精算する必要があります。この「所得者」はつまり「会社から給与をもらうサラリーマン」も該当します。
しかし、会社から給与だけをもらうサラリーマン全員が確定申告をするのは、一般的にはハードルが高いと言えます。それを受け付ける税務署側も大変、徴税コストも莫大に掛かります。徴税漏れが出てしまうリスクも高いでしょう。
また、1年に1回まとめて所得税の納税が発生するのは、負担する側からすると大変辛いことです。国側としても、国税収入の時期は出来れば平準化して、毎月得たいところ。
そこで出来たのが、「源泉徴収制度」です。
給与所得者の人が確定申告をしないで済むように、また一括で税負担が発生することが無いように、
謂わば、
「事業者が所得者に代わって毎月所得税を仮精算してくれる」
という制度になります。
毎月の所得税の精算は「仮」であるため、1年が終わった段階で、最終的な所得の合計額を精算する必要があります。それが「年末調整」ということになります。
つまり、給与を受けている方は、事業者が代わりに所得の精算を行なってくれるため、確定申告をせずに済むという恩恵を受けられる制度になっているわけです。
払い出しをする給与から源泉徴収を行うことが義務付けられている事業者は、給与計算の際に源泉徴収税額の計算を行う必要がありますが、その際に使用されるのが「源泉徴収税額表」です。
この「源泉徴収税額表」では、毎月の社会保険料控除後の給与の金額から、いくら源泉徴収をする必要があるかを金額別に記載されているものになります。
源泉徴収税額は、扶養する親族の数「扶養親族等の数」が多ければ多いほど、税額は少なくなります。
実は、「源泉控除対象配偶者」は、この「扶養親族等の数」に含まれるというのが大きなポイント。
「配偶者」と「扶養者」の意味は異なりますが、それはあくまでも年末調整や確定申告のときの考え方であり、毎月の源泉徴収においては、「扶養親族等の数」でまとめられているということです。
「扶養親族等の数」に配偶者が1人該当するかどうか、その判定が「源泉控除対象配偶者」ということになるのです。
「扶養親族等の数」が変わると、毎月の給与から源泉控除の額が大きく変わりますから、会社としては従業員さんの配偶者が「源泉控除対象配偶者」であることを把握する必要があります。
その把握するための書類が、入社時と年末調整時に回収する「扶養控除等申告書」(◯に扶)ということになります。
この書類では、給与計算時の「扶養親族等の数」を把握することが主目的です。
一般的には年末調整時に配布されるため、年末調整に使う書類なのかと思いきや、そうではなく実は翌年からの給与計算を行うための準備に回収をしている資料だったということです。
ここで気になるのは、事業者側の把握義務。
事業者側は従業員に源泉控除対象配偶者が居ることをどこまで把握する必要があるのででしょうか。
我が国は「申告納税制度」を採用しており、納税者の一人一人が自ら所得の申告を行い、確定した税額を自ら納めること、を前提にした制度になっています。
あくまで税は自己申告の世界です。
源泉徴収制度は、事業者側が徴収納税してくれる制度で、給与所得者が恩恵を受けられる制度です。
これらの点から、事業者側は扶養控除等申告書を従業員側に配布回収し、正しく書いてもらうように案内することは必要ですが、その書類を最終的にどう記入するかは、従業員さん側に委ねられていると考えることが出来るでしょう。
「源泉控除対象配偶者」が居ることを従業員さんが記入しないということは、その従業員さんは税の恩恵を自ら放棄しているということになります。
「恩恵を受けられるかどうかも自己の申告に委ねられている=自分利益を守るために正しく記入しましょう」ということが言えますね。
給与計算時、年末調整時に恩恵を受けられなかったとしても、確定申告という方法が残されています。
従業員さんが自分で確定申告を行うことで、税の恩恵を受けることが出来ます。
事業者で行う年末調整が最終ではない、ということは留意しておくと良いでしょう。
雲野会計では、給与計算の指導の他、従業員さん向けに扶養控除等申告書を回収する際のレクチャーを丁寧に行なっております。
年末調整時には、記入する従業員さん向けのマニュアルを配布し、事業者が正確な情報を回収出来るようにお手伝いをしております。